藤植流胡弓について藤植流胡弓

 

 江戸中期の享保若しくは宝暦の年間、江戸に現れた藤植検校が、広範囲に普及していた三弦の胡弓に改良を加え、四弦の胡弓を創始し、藤植流胡弓の流派を確立した。この藤植流胡弓の特徴は、四弦である点、並びに弓が長い点である。

 

 藤植流胡弓の正当な継承者であって、本CDに収録された楽曲を演奏した山室陽子は、将軍家たる徳川家から拝領したとされる胡弓を、先代の山室千代子から藤植流胡弓の技能と共に受け継ぎ、保存している。この保存された胡弓は、NHKにより撮影記録されているとともに、「現代音楽大観」には次の通り記載されている。


「現在山室家に保存されている胡弓には『もろ声』の文字が記されているが、これは藤植検校の妙技を賞で記した将軍家の直筆であると云われている名器である。」

 

 なお、大百科事典(平凡社、昭和42年刊)に〔こきゆう〕胡弓。広辞苑(岩波書店刊)にも、藤植流胡弓についての記載がある。

 

 先代の山室千代子(山室陽子の祖母)は大正、昭和の初期時代しばしば皇居に招かれ皇后陛下の御前で演奏し感謝状を拝受している。

 

 


(解説/東京理科大学 准教授 平塚三好)